日本独自の哲学研究
コラム
2024.10.31
二十世紀前半の京都大学には、西田幾多郎や田辺元ら著名な哲学者が多く在籍し、「京都学派」と呼ばれる哲学者集団が形成されていました。西洋哲学を基盤としつつ、東洋的思想も背景に取り入れた、日本初の独創的な哲学と評されています。近年、その非西洋的でオリジナルなアプローチに注目が集まり、海外でも高く評価されています。
なぜ、京都大学でこうした哲学が生まれたのでしょうか。そこには歴史的要因があると考えられています。創立当初からドイツ式の研究中心主義を採用し、学生も自立した研究者として扱う環境が整っていました。この主体的な思索を尊重する風土が、独自の哲学を生みだし、弟子らがその知を受け継ぎ発展させていく「学派」が形成される基盤となりました。
京都大学の哲学は、他の学問分野にも影響を与えています。生態学者で霊長類学の祖である今西錦司の理論や、学生時代には西田幾多郎による哲学の講義を熱心に聴講していたという物理学者・湯川秀樹の思考の根底にも、その影響が見られます。
変化が激しく、これまで根幹をなしていた価値観や基準が揺らいでいる現代において、哲学の重要性はますます高まっています。「京都学派」以来、100年以上の長きにわたり、現実に基づく多くの問題を考察してきた京都大学の哲学者たちの思索は、科学哲学、生命倫理学などへも広がりを見せ、人類が持続可能な社会と未来を築くための指針を発信し続けています。