災厄のなかの日常的営みに創造の力がある
人文科学研究所
私は紛争や災害、公害など破壊的出来事の爪痕と共に生きる人間と地域社会の経験を、20世紀後半に長期紛争をくぐり抜けた英領北アイルランドや、東京電力福島原発事故が起きた東北太平洋沿岸地域を事例として、人類学的視点から調べています。特に、家事やケアや娯楽のような日常的な営みに長期のフィールドワークを通じて接近します。掃除や洗濯、食べること・遊ぶことなどは、取るに足らないようにも見える生活の営みですが、心身の安全が脅かされる状況下で逆にその重要性が浮かびあがるのです。気候変動や長期化する軍事紛争など、社会が常に災厄や巨大暴力と共にあるようになり、異常状態と通常状態の境界が薄らぎつつある現代だからこそ、日常の営みから生まれる新しい関係や創造的な力の可能性に光をあてていきます。